8050問題

 川崎市で起こった児童ら20人殺傷事件、元事務次官の長男刺殺事件、立て続けに起こったこの2つの事件は、大変ショッキングなものでした。
 この2つの事件により、『引きこもり』や『8050問題』といったキーワードがテレビやネットで大きくクローズアップされています。
 私も40代の引きこもりの相談を受けたことがあります。相談者は80代の母親でしたが、様々な不安に苛まれ、ご自身でも「数年前から既に限界を超えてしまっている」とのことでした。
 もちろん詳細は他言できませんが、概要としては、家族を含め他者に暴力をふるったり、犯罪を犯す傾向や心配は一切ない。また、自殺を含む自傷行為等の傾向や心配もない。そして、経済的な心配もほぼ無い。そんな状況でした。
 ここまでを聞くと、「問題?不安?そんなの何もないんじゃないの?単に親のすねをかじり続けている子どもと、かじらせ続けている親ってだけじゃないか」とお思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 しかし、考えてみてください。親はだれしも、子の成長や成功を願うものかと思います。そんな思いの中、現実としては、仕事をせず、恋愛や結婚をせず、他者との交流をしないで長期間過ごしている子どもがいるのです。親としては、犯罪者になる心配や経済的な心配がなくとも、山ほどの抱えきれない心配が次から次へと出てきても、それは当然なことだと私は思います。

 相談後、「もっと早く、誰かに子どもの話をすればよかった」とその方はおっしゃっていました。そうしていれば、子どもの引きこもり自体は今と変わっていないかもしれないけれど、自分の気持ちと子どもへの接し方は今と随分と違うものになれたであろう。ただ、「こんな話を聞かせたり相談できる人はなかなかいなかった」ともおっしゃっていました。
 もし、これを読んでくださっている方の中で、今まさに悩みの真っただ中にいる方がおられたら、是非、あなたの信用・信頼できる人に、勇気をもって相談してみてはいかがでしょうか。それをしたとしても、すぐに問題が解決できるようなことはまずないでしょう。でも、不安を抱えながら、ただただ時間を経過させるよりはきっと良いのではないかと思います。話す相手によって、ただ話を聞くだけの人もでしょうし、具体的なアドバイスをしてくれる人もいるでしょう。いずれにせよ、親身になって耳を傾けてくれる人であれば大丈夫かと思います。
 引きこもりの問題は、親の視点で考えると、『いつかは終わる』と思えている時期から、『一生終わらないだろう』と思えてしまう時期へと変化することが多いようです。もしその変化を既に感じているのであれば、それは相談時(そうだんどき)なのではないでしょうか。

 犯罪や事件とは離れていても、引きこもりの家族をもち、悩んでいる方はいっぱいいます。報道されるような極端な事例だけではなく、一見普通の生活の中に溶け込んでいる『8050問題』。そんな話をちょっとだけさせていただきました。